映画の中の着物『流れる』

着物いろいろ雑記

映画の中に登場する着物を見るのが好きです。幸田文原作、成瀬巳喜男監督の映画『流れる』は、女優陣も豪華で着物も多種多彩。

芸者屋が舞台なため、普段着の浴衣から、お座敷の着物まで、さまざまな着物や、優雅な着物のしぐさを鑑賞できました。

映画イメージ
映画イメージ

『流れる』(1956)あらすじ

芸者屋つたの家に紹介所から女中の梨花(お春)がやってきた。女将のつた奴に気に入られた彼女は、住み込みで家事を任されることに。

物腰も丁寧で、万事そつなくこなすお春に女将も芸者たちも、信頼を置くようになる。しかし、女将やその身内の女、芸者たちは様々な問題を抱えており、借金が嵩(かさ)んだつたの屋は徐々に衰退していく…。

流れる 予告

映画の中の着物いろいろ

芸者屋が舞台の『流れる』は、たくさんの美しい着物と着こなしが見れます。そして、当時の人気女優たちの着物姿の美しさと言ったら、ため息がでるほどです。

日常着の浴衣

この当時、普段着だった浴衣。芸者さんたちは、大きな柄の浴衣を粋に着こなしています。

山田五十鈴演じる女将の着る流水紋の浴衣は粋で、うなじから背中にかけてのラインがとてもきれい。当時の女優さんは着物を自分の皮膚の一部のように、美しく、時には妖艶に着こなしています。

杉村春子さんの浴衣の帯は大きな矢の字でこれもまた粋。

豪奢な芸者の着物

岡田茉莉子さん演じる芸者の着物は、あやめ(かきつばた?)の衣装もゴージャス。モノクロでわかりにくいですが、おそらく黒字に金糸の入っている帯を締めています。

女将が芝居見物に行く時は、水をイメージした文様に笹が描かれた帯。

モノクロなので色は想像するしかありませんが、きっと、艶やかな色彩だったのでしょう。

映画の中の着物しぐさ

芸者屋の女中として働く梨花(お春)さんは、いいところの奥様だったらしく、普段はしどけない芸者たちと対照的で、お辞儀など、ふだんの所作や言葉遣いが美しい。

家事をするときも、帯締めに袖をちょっと挟んで、軽やかに立ち上がる姿が気品に溢れています。

着付けはゆるく、衿はピシッと

昭和30年当時の着付けをみると、現代よりもゆるやかです。帯のお太鼓結びも利き手のクセがついているので斜めになっている。けれどそれが普通なんですね。今のようにカチコチのフォーマルではない、生きた着物の姿が映画の中にはありました。

一方で、衿はピシッとしていて、芸者の粋と張りを感じます。

雑誌「七緒vol.68― 「映画の着物」研究」によると、映画の着こなしにはキャラクターが反映されているそうです。

『流れる』の場合も、プライベートの空間では衿はゆるく、あらたまった席では衿はピシっとしています。

また、少しだらしのない性格の女性の衿はゆるくなっていますね。

映画は着物のスタイルブック

古い映画に出てくる着物や着付けは、スタイルブックのようで見どころ満載。ふだんから着物を着ているからこその、家事の時の着物の始末や、所作に関してもとても勉強になります。

着物目線の映画鑑賞、おすすめです。

映画の中の着物しぐさ『祇園囃子』