着物漫画の歴史は、時代背景や女性の生き方にも関連してきます。
『衣ものがたり』は、90年代の着物漫画の短編集でレディースコミックに連載されていました。今の自由な着物漫画と違い、フォーマル着物ときっちりとした着付けが特徴です。
『衣ものがたり』あらすじ
名家・御船家の娘、紫子(ゆかりこ)のため、母親があつらえた百枚の着物。しかし、娘は二十代で亡くなってしまう。母親は形見分けに着物を縁のあった女性たちに贈ります。
これらの着物が時を経て、悩みを抱える女性たちの手に渡り、彼女たちは着物に込められた意味を知って自分らしい行き方を見つけていきます。
90年代の着物漫画から見える当時の女性の価値観
着物漫画の歴史考察でも書いたのですが、90年代の着物漫画はフォーマルな着付けが主流。着物を着ていく場所も、パーティーやお茶席といったフォーマルな場面が多いのが特徴です。
今のように和洋折衷コーデやはなく、とにかくきっちりと正確に着付けをしています。
そのため、自由な着こなしの現代から見ると、少し堅苦しく感じてしまいます。
ただ、珍しい無地の振袖に、作家ものの紬や友禅など、着物の素材や文様、季節に合わせたコーディネートは勉強になります。
また、物語のほとんどが女性たちの恋愛・結婚にまつわるお話というのも興味深いです。
今だったら、ただ着物を着ることを楽しむストーリーが成立しますが、この頃は恋愛と結婚が女性の価値の中心だったんですね。
令和の着物漫画は趣味として楽しむ
現代の着物漫画『爛漫着物コードレス』だと、恋愛でも結婚でも、キャリアでもなく、着物を趣味として楽しむためのストーリーです。それで成立するし、楽しいのが令和の着物漫画の特徴かもしれません。
『衣ものがたり』幻の続編
ところで、この『衣ものがたり』ですが、再販では2巻で完結となっています。しかし、私が単行本で読んだ時は、このあとに続きがありました。
娘・紫子を亡くした心の傷を抱える御船の奥様の元へ、ある女性が訪ねてきます。彼女をきっかけとして、紫子の死の原因を作った少年と再会し、和解する。
といったストーリー展開があったはずなのです。しかし、電子書籍で再販されたときは、これらのお話はカットされていました。着物とあまり関係がなかったからでしょうか。
できれば、最後までストーリーを読んでみたいですが…。
まとめ
今回は90年代に描かれた着物漫画『衣ものがたり』を紹介しました。描かれた時代によって、着物の楽しみ方や着付け方、女性たちの考え方も現代と少し違っているのが興味深いですね。
そして、ぜひ続編も再販してほしいものです。